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曼荼羅

曼荼羅 13

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「鴻ちゃん」

 気がつくと栗子が、俺を心配そうに覗きこんでいた。ごうごうという飛行機の音がすべてを掻き消すくらい静かな空間で、俺ははっと目を開けた。前回はキャンセル待ちで取った座席だったので離れてしまったが、その日は二人は並んで座っていた。

「夢?」
「うん、眠ってたみたいだったからしばらく放っておいたんだけど」栗子は言った。「なんだか、泣いているみたいだったから」
「泣いてた?」

 うん、と栗子は俺の目を見つめた。シートに沈んでいた身体を起こして、俺は彼女から目をそらした。

「よく覚えてないけど、夢、見てた」

 そう、と栗子はそれ以上のことは聞かなかった。俺は少し混乱していた。生々しい感触で夢の世界はまだ俺の感覚の中に残っていた。栗子の身体を必死に掴んでいた手が、しっとりと汗ばんでいた。

「大丈夫、貴樹は死んだりしてないよ」

 栗子は、俺の手をぎゅっと握った。俺は、俯いたまま、うん、と答える。まだ身体が飛行機の中に馴染まずに、混乱したままだった。

「あのね」と栗子は、身体を傾けて、静かな声で俺の耳元にささやいた。
「憎んでたってことは、実はほんとうだけど、でも、だからってどうしようと考えたことはなかったよ」

 ぎょっとした。しかし、俺は何気ない風を装って、うん、と頷いた。

「だって、貴樹は鴻ちゃんのお父さんなんだもん」

 唾を飲み込もうとしたのに、喉がカラカラだった。

「それにね」

 栗子は一旦窓の外に視線を戻してしばらく黙っていた。雲の上を滑るように進んでいる鉄の塊の中で、そのとき何故か俺は天涯孤独で寂しくて、心細い幼児のような気がしていた。

「夕べ眠れずに考えたの。もし、貴樹が死んじゃったら、って」

 どくん、と俺の心臓が鳴った。ナイフを振り上げた栗子の背中を思い出し、息が苦しくなる。

 あの白い病室で、父は眠っていたのか、それともすでに息がなかったのかよく分からなかった。事故に遭ったような怪我もなく、包帯を巻いていたわけではなく、あのとき父は青白い顔で、ただ眠っているように見えていた。

 あの眠りは何を意味していたのか、と俺は不安に思う。

 現実の父の怪我の状態は酷かった。今朝、会社の方から電話があってそのやり取りを聞いていたのだが、医学用語が飛び交っていて俺にはよく理解出来なかった。緊急手術が行われて一命はとりとめたが、意識の回復が見込めるか分からないと言われたそうだ。このまま植物状態かも知れないし、或いは繋ぎとめた命はいつ途切れてもおかしくないと。

「死んじゃったら…って。そしたら、苦しくなって寂しくなって、…ほんとうに悲しいと思った。きっと貴樹の顔を見たらわんわん泣いちゃうって」

 栗子はそう言いながら俺を見つめ、俺は「え?」と驚いて栗子の顔を見つめ返した。

「前世がどうであれ、貴樹は今、貴樹で。それがよく分かった。そして、もうひとつ分かったことがある」
「何を?」やっと俺は口を開いた。
「姉は」栗子は、大きな目を見開くようにして俺を見つめて言った。「鴻ちゃんのお母さんは、きっと貴樹を許して、そしてきっと愛して逝ったんだということ。許せたから、愛せたから、あんなに安らかに逝けたんだって」

 母の顔が浮かび、ぼんやりとその顔が栗子に重なって見えた。二人の印象は違っていたのに、全然似てないと思っていたのに、何か共通のものがあるとしたら、それは俺を見つめる光の色だ。

「だから、それを伝えたい。死なないで欲しい。絶対に、死なないで欲しい」
「ほんとうに?」

 と、俺は聞いた。声が震えた。
 うん、と答えて、栗子は不思議そうな顔をした。

「さっきからどうしたの? 悪い夢でも見たの?」

 うん、と俺は泣きそうな笑顔を浮かべた。「とびっきりの悪夢を」そして、大きく息を吐いて、ふふ、と笑った。知らずに、熱い涙が頬を伝った。

 違う。父を憎んでいたのは、栗子でも母でもない。父自身だったんだ、と不意に思った。そして、そんな父を救おうとしていたのが、母であり、栗子だったのだ。



第一部 完
(みたいな?)




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