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曼荼羅

曼荼羅 11

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 翌早朝の飛行機の中で、栗子は無言だった。いつもの軽口を飛ばせないくらい、彼女は深い思考の闇に沈んでいたんだろうか。そして俺も、自分が何をどう感じているのか分からずに怯えていた。栗子が話してくれないことすべてが怖かった。

 母は、いや、母もその「記憶」を抱いたまま父と結婚したのだろうか。母は、父を憎んでいたのだろうか。父は何もかも分かった上で自分がかつて殺した姉妹と結婚したのだろうか。父は、母と栗子のことを本当はどう思っているのだろうか。

 そして、栗子は。―栗子は、今も父を恨んでいるのだろうか。

 仲良しだと思っていた家族の正体は、ほんとうは心の底に憎しみと贖罪と、呪いと嘆きだけに彩られた憐れな運命の生贄に過ぎなかったのだろうか。

‘親父に死んで欲しかった?’
‘そうは言わない。でも、憎しみを消すのにどうしても時間が必要だった’

 あの会話を思い出すと、胸が苦しくなる。

 デハ、憎シミハ、消エタノ?

 その一言を怖くて聞けない。昨夜、栗子が語った‘物語’を、俺はまったく記憶になかったし、そもそも俺はすごく幼い頃に殺されているんだから覚えてなどいないし、きっと恨みや呪いなど抱く間はなかったんだろうと思う。

 何故、そのstoryをバカバカしいと思えなかったのか。少なくとも、栗子の錯覚だとか空想だとか、そんな風に片付けられなかったのは、あまりにいろいろ腑に落ちたからだ。それまで、なんとなく「おや?」と感じたこと、ふと不思議に思って、でも「まぁ、良いや」と自らの中に封じてきたことの辻褄が合うような気がしてしまったからだ。

 亡き母は、穏やかで、いつも穏やかで、愚痴も言わなかったし困ったことがあっても、困ったねぇ、とにこにこしているような人だった。悲しそうな顔も滅多に見たことはなかった。俺を見て微笑むときの目が、今思えば「生きてさえいてくれれば良い」と云っていた。その言葉の持つ意味を、ようやく知った気がする。

 かつて自分を撃ち殺した男。
 もし、母がそんな風に父のことを思っていたのなら。
 ―気が狂いそうな気がした。


「あのとき、やっぱり死にたいと思ってたんでしょう?」

 死にゆく母を見つめ続ける時間は、確かに生きたまま朽ちていくようなおぞましい錯覚を得るには充分だった。学校へ行けば大会実行副委員長として、誰一人相談する相手もなく、間違っているのか正しいのか分からないまま手探りですべてを進めていくしかなかったし、時間的な負担より、常に考え続けている思考的な疲れが溜まる一方だった気がする。それでもその仕事を投げ出さなかったのは、責任感よりもその必死な時間だけ、目の前の母の死から逃れることが出来たからだ。

 そんな日々の中、無理をしていたつもりはなかったし、「もう限界だ」とか「つらい」と感じたことはなかった。ただ、時々朝起きるのが無性に難しくなっていたり、何故か身体に力が入らない、という事態に陥ってみたり、意識と身体がバラバラだったことはあった。

 あのとき、父は実はホッとしていたのかも知れない、と暗い思考の果てに思う。母が生きて父の目の前に存在しているということは、父にとって、罪の意識を否が応でも呼び起こす対象がそこに在り続けることだ。常に自らの罪を見つめ、贖罪の日々を課せられていることだ。そんな母がもうすぐ確実に死ぬだろうという時間は、父にとって慰めだったのかも知れない。それを責められやしないと思うのと同時に、何か黒いものがお腹の底で蠢く。

 そこに在ることが、母にとっての復讐だったとしたら。だから母は、どれだけ憎い相手とでも家族の振りが出来たのだろうか。

 いや、そういうことではなく。俺が苦しいのは、母は、幸せではなかっただろうか、という思いだ。ただ、復讐のために有った人生だったのか。そして、それを双子の妹である栗子が引き継いだだけなのだろうか。

‘あたし、生まれてから今まで一度も死にたいなんて考えたことない。どういう思考の果てに死にたいってことになるの?’ 

 栗子の大きく見開かれた瞳の、その奥に光る慈愛の色を思い出した。

 生きて、と強く強くその目は俺に云っていた。母の、生きてさえいてくれたら良い、というこれ以上ない深い悲しみの深淵と対を成して。

 二人の母に俺は守られているのだ、というほのかな灯りと同時に、父への思いが複雑に絡み合って赤と黒の紋様を描く。くるくると、くるくると踊り狂うような曼荼羅。

 栗子は、父を許してなどいないのかも知れない。

 その悲しい闇を覗いてみるとき、分からないなりにも、姉を目の前で殺され、子どもを奪われた女の心模様を必死に手繰り寄せてみる。それはどんな鮮やかな闇を描き出していたのだろうか。その悲しみ、苦しみ、僅かな希望にすがった一人きりの時間は、彼女にどんな地獄を見せ続けていたのだろうか。

 そこに、たった一筋の‘ひかり’も差すことはなかったのだろうか。愛してくれる人は、どこにもいなかったのだろうか。

 ‘死’とは、遺された者の問題なのです、と誰かが言っていたことを思い出す。

 逝ってしまった人はもういいのだ。次の時代、次の世に生まれ変わる準備に入るのだから。でも、遺された人たちは、逝ってしまった人を思って嘆き悲しみ続ける時間が用意されている。そこを越えていかなければ、その思いと共に永遠に業火に焼かれることになる。絶え間ない苦痛が炎となって。
 

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