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曼荼羅

曼荼羅 8

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 父と三人で過ごした休日はあっという間に過ぎ去り、俺たちは再び帰りの飛行機の中にいた。結果から言えば、天気はいまいちだったが、父が車であちこち連れまわしてくれたお陰でへとへとに疲れはしたが、楽しい時間を過ごしてきた。女の影は、まったくなかった。ただ、栗子が期待していたほど、父は生活がしっかり出来ていなくて、食事もインスタントや外食が多く、洗濯もほぼクリーニング頼りで、部屋の中には生活感がさっぱりなかった。

「栗子、親父のとこに残ってくれても良かったぜ」

 通路を挟んで隣に座る彼女に、俺は言った。父と空港で分かれてから、栗子はずっと黙りこくっていた。

「ううん」ややあって、栗子はゆっくり口を開いた。「とにかく、一旦家に戻るよ。まずは、鴻ちゃんのこと」
「だから、俺は大丈夫だよ。食事の支度だって出来るし、洗濯も掃除も特に嫌いじゃない。家中は無理でも、俺が日常動く場所だけはなんとかしておくし」それに、と俺は続けた。「あと半年。俺は一人でも平気だって」

 父は、来年の3月には戻ってくる予定だと言っていた。

「うん…」と栗子はちょっと考え込んでいた。そして、あのね、と小声で笑った。
「ほんとうはね、もしも浮気とかしてたら、張り倒してやろうと思ってた」

 は? と俺はその話題の展開にぽかんとする。

「何より、鴻ちゃんへの裏切りだもの」
「なんでさ」
「理想…とまではいかなくても、マトモなっていうの? 一般的に普通程度の父親像を鴻ちゃんがしっかり抱けなくなるのは許さない、と思ってた」
「いや、父親よりも、浮気ってのは妻に対する裏切りじゃないのか?」
「あたしは、実はあんまり気にならない。男なんてそういう生き物だし、家庭を壊すことは許さないだけで、多少の気晴らしとか慰めとか、必要経費と考えるし」
「必要経費って―」俺は呆れて吹き出した。
「でも、僅かでもそんなこと考えたあたしを見事に裏切って、貴樹は清く正しく生きてたみたいで、それがちょっとだけ罪悪感」

 ああ、と俺は微笑んだ。

「だから、栗子。良いよ、親父の面倒みてやってくれよ」

 俺をちらりと見て、栗子は、うん、と頷いた。

「考えてみる」

 栗子の横顔を見つめながら、俺は、会社を不意に尋ねて父を呼び出したときの彼女の様子を思い出していた。まだ暑い南国の空気の中、ほんのりと頬を染めて、わくわくする空気を全身からほとばしらせて、栗子は父を待っていた。その高揚感は俺を幸福にした。一緒に同じ気持ちで、見知らぬ父を待っていた。

「あれ、どうしたんだ?」

 怪訝な顔をして表れた父が、見る間に目尻を下げてこれ以上ないほど顔をほころばせるのを、俺は初めて見たような気がした。

「へへ~ん、抜き打ちテストだよ」

 栗子が言い、白いワイシャツ姿の父は、参ったなぁ、と笑った。

 俺が、父を尊敬するのは、明かに俺よりも年下の栗子を、まったく気後れすることもなく、「妻です」と社員に紹介するような堂々とした態度だ。

「話には聞いてましたが、ほんとうにお若いんですねぇ!」

 冷やかし半分のそんな反応を、父も栗子も特に気に留めるでもなく、一通り挨拶をしてまわると、「じゃ、退社時間までその辺で時間を潰してるよ」と俺たちは会社を後にした。連休中だったので、社員は半分くらいしか出社していなくて、父もその日は少し早めにあがるから、と手を振ってくれた。

「貴樹、ちょっと痩せた?」
「暑いからな」

 二人で汗をかきながら、ぶらぶらと町を歩く。ふと目に入った喫茶店に立ち寄って飲み物を頼み、ケーキを食べた。

「夕ご飯、何作ろうか?」
「え、作る気なのか?」
「うん、だって、せっかく来たし、手料理もしばらく食べてないだろうし」
「もし、部屋に誰かの手料理があったらどうする?」
「捨てる」

 俺は笑った。

「じゃ、親父より先に部屋に入ってみないと」
「一緒に入ったって、隠す暇なんてないって」

 そして、部屋にあったのはインスタント食品の空と、クリーニングから戻ったばかりのワイシャツの山と、洗濯機に放り込んだままの下着の山、そして部屋に舞う埃だった。

 
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