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曼荼羅

曼荼羅 5

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「あたしはねぇ、施設育ちで親もきょうだいもいないし、親の顔も分からない。生まれてすぐに捨てられたみたい。でも、捨ててくれて良かったよ。生まれたばっかりの赤ん坊を捨てるような人間にマトモな子育てが出来る筈はないもんね。もし、世間体とかいろいろ雑多な思いで傍に置かれていたら、きっと殺されてたと思うから」

 あるとき、俺の家に上がりこんでいた栗子は、夕食の支度を手伝ってくれながらそんな話を始めた。一人で生きてきただけあって、彼女は料理は上手かったし、妙な雑学―民間療法や、薬草の種類など―をいろいろと知っていた。俺や父が、母の葬儀が終わってがっくりきているとき、ひょっこり顔を出しては乾燥した山の草などをお茶にして飲ませてくれたり、優しい香りのするお粥を炊いてくれたりと、変に気が利くことを続けてくれていた。

 その日も、夕食の材料をどこからか調達してきてくれた栗子は、根菜を煮こみ、雑穀ご飯を炊いて、具沢山の味噌汁を作ってくれていた。つまり、手伝っていたのは俺の方だった。

「今、子どもが虐待されて死んじゃう事件や、学校でイジメに遭って自殺しちゃったりとか、老人が都会のど真ん中で一人ぽっちで生きているとか、なんだか痛いようなことばっかりが当たり前になってて、若者は電車のホームにふらふら飛び込もうとしているし、ほんとイヤになっちゃうよね」
「おい」俺は、味噌汁に味噌を溶きながら栗子を横目で睨んだ。
「最後のはなんだよ。俺のことか?」
「そんなこと言ってないじゃない。あ、それ、ちょっと味見させて?」

 味噌汁の汁をほんの一口すくって口に含み、「あ、ちょうど良いね」と彼女は頷く。

「今さ、減塩減塩って騒いでるけど、塩は人間を構成する基本なんだから、むしろ取らないとダメだよ。塩化ナトリウムじゃなくて、ちゃんとした粗塩。出来れば日本の海水からとった塩が良いね。塩田で作ったものでも、窯で煮詰めたものでも良いんだけど」

 栗子の話は大抵聞き流しているだけだし、それって、ほんとうか? と眉を寄せたくなるようなことも発言するので、あまり真面目に聞かないのだが、時々「へえ、そうなんだ」と呻りたくなるようなことを言う。学校にもマトモに通ってない彼女がいったいどこでそんな知識を得るのか不思議だったが、真偽のほどは分からなくても、彼女の口から出る言葉は、俺を不快にさせることは少なかった。

「聞いて良いのか微妙に疑問なんだがな」俺は、キッチンの隅に置かれている、栗子が持参した土付きの根菜や葉物野菜の残りにチラリと視線を投げて言ってみた。
「あれは、いったいどこから持ってきたのさ?」

 え、と栗子は煮物の味付けを確認しながら、トボけているでもなく、ほとんど意に介さないような表情で俺に視線を向けた。

「今、お前が料理に使っている食材のことだよ」
「ああ。あたしが手伝ってる農家さんからいただいてきたのよ。だから、形が変でしょ? 売り物にならない自家用野菜とか廃棄野菜だから大丈夫」
「手伝ってる?」
「あれ、言わなかったっけ? こっからだと電車で1時間くらいのとこ。そんなに規模は大きくないけど、ハウスを何棟か持って有機無農薬栽培して、全国に発送したり産直で販売したりしてる農家さんがあってね」

 話が長くなりそうだったので、俺は、はいはい、分かったよ、と棚から盛り付けの皿を取り出し始めた。それでも栗子はその農家の名前だとか家族構成だとかを延々と語り続けていた。そういえば、前には酪農家の家に住み込みで働いていたようなことも言ってたし、アクセサリーをデザイン、製造する個人の店の手伝いをしていたという話も聞いたような気がする。

 そして思った。そうか、そういう専門家と日常的に接していて、仕事をしながら彼女はいろいろな知識を学び、技術を吸収し、学校なんか行かなくても一人で生きる術を身につけ、この世知辛い日本の中で逞しく生きてきたんだと。

 いつか、なんで学校行かないの? と聞いたことがある。

「学校なんて」と栗子は吐き捨てるような口調で言い放った。「今、日本の学校は、子どもを奴隷化する場所に成り果てているんだもん」
「奴隷?」
「自分では考えたり判断したりすることを禁じている」
「そんなことはないぞ?」

 反論しようとしたが、具体的な論が浮かばない。栗子は僅かに笑みを浮かべた。

「ちょっと極論かも知れないけどね、全部じゃなくても、一部ではもうそういうシステムになってるよ。アメリカ様の指示でね」
「陰謀論かよ」

 栗子は目を細めた。

「学校で学ぶのは、表に出ている企業に就職するためのノウハウ。光を浴びていると思っている世の中で、一般的な生き方をするためのツール。海外に行ったとき、日本ってどんな国ですか? って聞かれたときの模範解答を叩き込まれている訳だよね」
「でも、それも日本社会に必要な一面じゃないのか?」
「その通り。だから、鴻ちゃんが学校へ行くことを止めはしないし、大学に進学して、良い企業に就職して、って進路も別に良いと思うよ。ただ、選択肢を提示することはしたいだけ。選ぶのも責任を取るのも自分だもの」
「栗子と話してると、世界が希望に満ちているような錯覚を得るなぁ」

 俺は、ため息を吐いた。

「世界は光に覆われて、希望がキラキラ輝いているんだって。だけど、明るさが増すごとに闇が深くなるってことも事実で、世界はバランスだから、希望があれば絶望もあるってだけのことだよ」


 栗子がそうやって食事を作ってくれることが日常化する頃、食卓を囲む父と彼女の距離は一気に縮まり、俺が知らないところで、父と栗子が会っていたことに気づいても、俺は別段ショックは受けなかった。多少驚きはした気がするが、なんだろう、そうなるような気がしていた、と俺は思ったのだ。

 二人は、どうしたって添うように運命付けられていたんだろう。父と母がそうだったように、父と栗子も何か目に見えない絆を抱いて生まれてきたのかも知れない。二人が出会ったとき、その場の空気が震えた。今思い返すとそんな風に感じる何かを、二人はお互いに抱いていた。

 父の再婚を、母が可哀想だと反対するような俺ではなく、俺の大学受験が終わって合格発表の日、父と栗子も家族になる書類に判を押した。
 
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