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曼荼羅

曼荼羅 3

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 死のうと明確に意識していたわけではなかった。同じ繰り返しの毎日に軽い疲労を感じ、努力したくても身体が動かなくなってきて、楽しくないことに無理して参加し続けていたら眩暈がするようになり、次第に嘔気を感じるようになった。

 無理していたつもりはなかった。相性があんまり良くないかも、と感じる相手はいた。それでも、時々はっとすることを言ってくれるし、間違いを指摘してくれる存在は貴重なんだと思って、相手の評価を真剣に受け留めようと思っていた。

 頑張っていたつもりはなかった。重すぎる荷物を耐久以上に抱えることはしなかったし、分不相応な役割には手を出さないようにしていた。だけど、頼まれごとを断るのが苦手で、周囲の空気に敏感で、居心地が悪い場所に居続けることは拷問に近かった。

 疲れてもいなかったし、無理もしていなかった。

 
 父とは血の繋がりがない。父は若い頃に新規の事業を立ち上げた青年実業家だったそうで、肩書きは社長となっている。20代後半くらいから、伴侶がいないのは仕事上いろいろ不都合だと周囲に言われるようになり、あちこちから見合い話を持ち込まれるようになった。確かに、出版記念パーティだとか、どこぞの会長の祝賀会だとか、そういう席に出席するのに女性を同伴するのは常識になっていたため、その都度、従姉だとか、秘書だとかに同伴をお願いするのは面倒だったらしい。それでも、結婚という制度に興味がなかった父は、どうしても伴侶が必要ならば、と相手が自分と一緒になることに寄って益がある相手を妻という立場に選ぼうと考えたそうだ。そこですでに俺には理解の範疇を越えているのだが、いずれ、父はそのとき知り合った未婚でシングルマザーの父より年上だった俺の母に結婚を申し込んだ。

 母は、俺という乳飲み子を抱え、フルタイムの仕事にも就けず、生活が困窮していた。だから、人助けのために結婚したいのだ、という父の申し出を受けたそうだ。

 そんな始まりで、愛もへったくれもない間柄だったのに二人は仲良く暮らしていたように俺は思える。喧嘩をしたこともなかったし、母は妻として役割をしっかりこなしていた。パーティの同伴も、取引先を自宅に迎えてももてなしも、家事も一切お手伝いさんなどを雇い入れることなく、一人ですべてを切り盛りしていた。

 そして、もともと静かな父と、特に盛り上がったりすることもない会話を淡々と交わし、いつでもにこにこしていた。

 そんな母が買い物に出た先でひき逃げに遭ったのは、俺が高校2年生の春のことだった。その後、意識が戻ったり昏睡状態に陥ったりを繰り返した挙句、わずか数ヶ月で母は逝った。

 栗子に出会ったのは、母が入院していた真夏のことだった。

 その日、学校が終わり帰途に就いたのはまだ薄明るい夕暮れで、駅に向かう途中のちょっとした繁華街の歩道で、数人の中学生くらいの女の子たちがアカペラで歌を歌っていた。聞くともなしに耳に入ってくるその歌声を聴いていると、声量はあるし、変にきんきん高い音域の歌ではなかったせいもあるし、なかなか上手いな、と思えるような心地良い歌声だった。


 当時、母の病院へ毎週末に通っていたことと、授業中や真夜中などに容体が急変し、慌てて病院へ駆けつけることが幾度となくあり、俺は常に緊張感と不安とを抱えて生活していたのだろう。そのとき聴いた歌は、歌詞はまったく思い出せないのだが、その声の響き、数人の声のハーモニーが、ひどく心に沁みたことを覚えている。

 思わず立ち止まって、僅かの時間その声に聞き入り、そして、俺は再び歩き始めた。
 何故か、涙が零れていたらしい。泣いていたつもりはまったくなかったのだが、気付くと頬を濡らしていた。

 その後、駅のホームにぼんやり立ちつくしていたのだが、何故かその間の記憶がおぼろげだ。気づくと、必死の形相をした女の子が、俺の腕を掴んで息を切らせていた。視界にはその子の顔と、何故かホームの天井が広がっていた。

 死のうとしていたわけではない。死にたいなんて考えたこともなかった。だけど、栗子は、電車が入ってくる刹那、俺がホームに飛び込もうとしていたとぬかす。背後から俺の腕を渾身の力を込めて引っ張り、勢い余って引き倒し、バカバカ叫んでいた女の子を、俺は茫然と見上げた。

 中学生くらいに見えたのは間違いではなかった。彼女は義務教育を放棄していたらしいが、年齢は俺より2歳下で、そのとき、まだ15歳、本来なら中学3年生だったのだ。

 
 そして、もっと理解し難いことに、俺が高校を卒業した年に、父は栗子と再婚した。死にたい他人の思考回路よりも、俺は身内である父の思考の方が分からないぞ、と思う。

 俺が大学に進学し、2年生になった年、父は福岡市に支社を立ち上げるために、しばらく地元を離れることになった。俺は大学があるから残るつもりだったし、一人暮らしも良いな、と考えていたのに、新婚の父は何故か単身赴任を選び、妻である栗子は家に残ると言い出した。

「なんで?」

 と俺は呆れて聞いた。

「俺は、一人でも平気だぞ?」
「良いの。貴樹は離れても浮気なんかしないから」
「そんなことは俺はどーでも良い。新婚なんだから、一緒に行けよ」

 まぁ…20近くも年が離れた夫婦ってのも、俺には理解出来ないし、そもそも、俺は結婚とか夫婦とかいうものがよく分からない。恋愛すらあまり興味がない。

 結局、俺の意見はまったく聞き入れられず、父は一人で九州へ行き、俺は継母と二人で家に残っている状態だ。しかも、継母が義務教育もろくに受けていない2歳も年下の元ヤンキーのような女の子ってのはものすごい特殊な環境であるだろうか。


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