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藍色哀歌

藍色哀歌 第三部 飛翔4

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 入院から数日が経過して、僕は次第に会話を続けることも難しくなってきた。日増しに全身の痛みが強くなってくる。脊髄にモルヒネを注入して痛みを和らげてもらい、それが効いている間だけ僕はなんとか起き上がって話をした。それでも時間は足りなかった。

 僕は彼にすべてを話さなければならないのに。命が尽きるまでの僅かの間に。

 成島蒼次郎は死ぬわけにはいかない。

 僕の言葉を請けて、彼は別の人間の保険証を用意してくれた。それは或いは彼自身のものだったのかも知れない。いずれにしても、僕は間もなくこの世を去る。まったく別の人間として。僕が死んだら、‘成島蒼次郎’は藍子さんとの約束を果たしてくれるだろう。

 僕は彼に僕と彼女の長い物語を話し、彼女からもらった手紙を託した。部屋のカギを彼に預け、すべての荷物の処分をお願いした。僕の部屋から持ち出してもらったその手紙の束に視線を落としたまま、彼は聞いた。

「彼女に君のことを聞かれたら、俺は何と答えれば良い?」
「…出来れば何も知らせないで欲しい」でも、それはきっと無理だ。そう思ったことが彼には分かったらしい。
「俺とあんたはまったく違う。背格好も考え方も暮らした環境も、性格も。十年も手紙のやり取りをしていた相手を彼女が間違えるとは思えない。一旦は信じた振りをするかも知れないが、いずれぬぐい難い違和感をおぼえるだろう。…そうじゃなかったら、あんたの婚約者を名乗る資格はない」

 僕は僅かに笑みを浮かべたのかも知れない。そうだったら嬉しいとどこかで思ってしまったのかも知れない。

「貴方が見たまま、そのままを―」僕は言った。「そして、彼女の幸せを祈っていると、それだけを伝えてください」

 目を閉じると、知る筈のない彼女の面影が浮かんだ。幸せそうに笑う彼女の笑顔がくっきりと鮮やかに。

 ああ、だけど、藍子さん、最後に一目だけでも貴女の姿をこの目で見たかった。声を聞きたかった。それがただひとつの心残りでした。

 どうか、鳥籠の中から折りたたまれたままだった美しい翼を思い切り広げ、彼と二人、外の世界へ飛び立ってください。


 白い大きな正面玄関をくぐって、受け付けへ進む。病院独特のどこか奇妙な寂しさと明るさを伴った空気を感じて、皐月はふと周囲を見回す。ここに、蒼次郎はいるのだろうか。

 入院病棟を聞き、そこのナースステーションを目指し、白衣の天使たちがひしめく見舞いの受け付けに声を掛けた。

「すみません、こちらに成島蒼次郎さんとおっしゃる方は入院されてないでしょうか」

 カウンターの向こうの若い看護師は「はい、少しお待ちください」とパソコン画面を確認する。

「ええと―成島さん…とおっしゃる方はいらっしゃいませんね。いつ頃入院なさってたんですか?」
「もしかすると、6月の終わりか7月くらいなんですが」
「6月ですか」彼女は入院の受付簿も目を通してくれていた。
「そういう記録はございませんね」

 そうですか、と落胆し、帰ろうとしたとき、奥から少し年配の看護師が現れた。

「あの、失礼ですがどちら様ですか?」

 はい、と皐月は、何故かそのとき咄嗟に答えた。

「諏訪と申します」

 すると、彼女は何か白いメモ紙を手に、皐月をにっこり見つめた。

「諏訪さま、こちらにご伝言がございます」

 え、と彼は面食らった。

「成島蒼次郎さんを訪ねて、諏訪さんとおっしゃる方がいらしたらお渡しするようにお預かりしておりました」

 折りたたまれた白いメモ用紙を受け取って、皐月は急いでそれを開いてみる。そこに書かれていたのは電話番号だった。

「ありがとうございます」

 皐月はそれを手に病院の外へ向かった。



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