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藍色哀歌

藍色哀歌 第ニ部 魍魎5

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 翌日の昼過ぎのことだった。蒼次郎はダイニングルームで昼食の後片付けをしていた皐月の背中に声を掛ける。

「皐月さん、お願いがあります」
「はい、なんでございましょう?」

 振り返ってみると、蒼次郎は光沢のあるグレーのシャツに黒のスーツと正装に近い服装をしている。

「車を借りてもよろしいでしょうか」
「構いませんが…。どちらへお出かけですか?」
「ええ」蒼次郎は微笑んだ。「今夜の食事は要りません。藍子さんとデートしてきます」

 一瞬、驚いた表情をした皐月は、すぐに嬉しそうな笑みを浮かべた。

「それはようございますね。…旦那さまには―」
「皐月さんからお伝えしていただけますか」
「かしこまりました」

 その会話を通り掛った狭霧が聞いていた。

「ふん、デートが聞いて呆れる」

 昨日、戻ってくるなり恐怖の表情で藤堂が耳打ちをしてきた。蒼次郎には気をつけろ、と。町で彼を見かけて後をつけようとした顚末と、そのときに受けた警告とを。

「僕はもう本当に降りた。やつにこれ以上関わりたくない」

 藤堂の青ざめた顔を見ても、狭霧はそれほど動じなかった。狡猾な笑みを浮かべてふんと鼻で笑った。

「つまり、探られては不味い腹があるってことじゃないですか」
「だとしても、もうご免だ。あの目は常人のもんじゃない」

 藤堂はそう言って狭霧に背を向けた。所詮、彼は野心家の小物に過ぎない。関わる世界の幅を心得ているのだ。

「外で作った子どもとはいえ、成島の御曹司風情に出来ることなんてたかが知れている。だいたい、誰にも告げずにこそこそ動き回ること自体がおかしいじゃないですか」

 その場を足早に歩き去りながら狭霧は呟いた。

「そろそろ依頼した探偵社が報告書を持ってくる筈だ」


 帰途に就いた藍子が校門を出ていつもの通学路を歩き出したとき、すう、と横に近づいてきた車があった。一緒に歩いていた女生徒たちも一様にはっとして身構えたとき、運転席の窓が開いて蒼次郎が顔を出した。

「お帰りなさい、藍子さん。迎えにきました」
「え、―そ、蒼次郎さん?」

 藍子が声をあげると、その名前を彼女から聞いていた友人たちがワッと近寄ってきた。

「藍子さんのご婚約者の方?」
「この方が蒼次郎さん?」

 車を道路脇に停め、こんにちは、とごく柔らかい笑みを見せて蒼次郎は彼女たちに挨拶をする。表情を和らげると彼は驚く程空気が変わる。背が高く手足がすらりと長い彼はそれだけで彼女たちに好印象を与えたようだ。

「皐月さんに車を使う許可はいただいてきましたから、どうぞ」
「え―ですけど…」

 思わず、一緒の友人を気遣って藍子は躊躇する。

「私たちのことはお構いなく」

 友人たちは冷やかしと羨望の混じった眼差しで、はしゃぐように言った。

「お二人でどうぞ」
「そうそう、私たちのことはお気遣い無用です」
「では、お言葉に甘えて」

 ね~、と頷きあう少女たちに向かい、蒼次郎は涼しい顔をして後部座席のドアを開け、まだ茫然としている藍子を乗せた。

「では、藍子さんはいただいていきます」

 悲鳴とも歓声ともつかない黄色い声に見送られて、蒼次郎は車を出した。

「あ―、あの、蒼次郎さん、どうして…?」遠ざかる学校を振り返り、藍子はやや当惑した声で手にしていたカバンを握りしめた。
「たまには二人きりで食事を、と思いまして」
「え」
「あの家で取る食事は気詰まりですからね」

 蒼次郎はバックミラーの藍子に微笑む。その言葉に藍子ははっと顔を赤らめた。蒼次郎ではない、藍子が藤堂と狭霧と一緒の食卓を苦痛に感じているのだ。彼女は未だにあの二人が苦手で、特に狭霧の視線が嫌いだった。

「そんなに高級な店にはお連れ出来ませんが」
「いえ、そんなことは別に―」
「藍子さんは制服ですからね」蒼次郎はふふ、と笑う。
「すみません」
「藍子さんが謝ることではありませんが」蒼次郎はバックミラーを覗き込む。「ホテルに連れ込んだりすると、犯罪になってしまいますね」

 今回は言わんとする意味がしっかり通じたらしい。

「蒼次郎さん!」

 悲鳴のような抗議の声に、蒼次郎は笑い声をあげた。


 どうぞ、と腕を差し出されて藍子はさほど違和感なく彼の腕にそっと手を添え、エントランスのガラスに映った二人の姿を目にして思わずはっとする。

 マルデ、恋人同士ノヨウダ―と。

「覚悟は出来ておりますか?」
「えっ」

 蒼次郎の不意の静かな眼差しに、藍子は言葉を失ってぽかんと彼を見つめる。それほど高級ではないと言っておきながら、そこは高級ホテルのレストランで、制服姿の彼女はイヤでも浮いている。案内を待っている間、蒼次郎は言った。

「俺と本当にやっていけると?」
「どうして―ですか?」
「いえ」蒼次郎は微笑んだ。「まぁ、今更、異を唱えたところでどうにもなりませんね」
「蒼次郎さん…は」

 それは遠まわしな拒絶であろうか、と藍子は心臓にちくりとした痛みを感じる。彼女の青ざめた表情を蒼次郎はどう理解したのだろうか。

「初めに言いましたよ。俺に異論はありません、‘かなり満足してます’」

 涼しげな表情の彼の横顔に藍子はその真意を量りかねている。

「…それは、私が諏訪藍子だから」
「それも、もちろんあります」くすりと蒼次郎は笑った。
「お席にご案内いたします」と、奥から年配の男性が顔を出した。距離の取り方と無関心を装う表情が自然だ。
「ですが、藍子さん、あなたはご自身の魅力をしっかり認識なさった方が良い」
「自分のことは分かっております」

 皮肉だろうか、と藍子の声は微かに震えた。家の名前に縛られ、すべて親の言いなりで生きてきた彼女は、その意味をよく分かっていた。自分を殺して、生き延びてきた。そこに‘魅力’など存在するだろうか。

「手紙の中の貴女はとても生き生きしておりましたよ」
「―え」

 何故か、藍子はぎょっとした。

「秘められた意思の強さと、うまくオブラートに包まれている頑固さ、細やかな心遣いや情の深さ、物事に対する公正な態度と聡明さ。それに体育が得意な深窓のご令嬢などは、あまりお目に掛かったことはありませんね」
「そ―」
「こちらです」

 まるで、二人の空気を見計らったかのように奥の小さな小部屋の扉を開けられ、藍子は赤い顔をしたまま口をつぐんだ。中へ足を踏み入れると想像していたよりずっと中は広かった。照明は明るすぎず暗すぎず、茶系で統一された内装に木製のテーブルが落ち着いた空気を演出している。窓はなく、周囲の音は程よく遮断されていた。

「どうぞ」奥の椅子を勧められ、藍子はちらりと蒼次郎を見上げた。その視線を受けて彼は僅かに唇の端をあげる。藍子はそっと椅子に腰を下ろした。
「すべて、予定通りに」
「かしこまりました」

 扉が閉まり、しんと静まり返った空間で、藍子は目の前に座る男をじっと見つめた。こういう席にごく自然に慣れている、ようだ。

「さきほど」藍子は相手の目をじっと見据えたまま口を開いた。「さきほど、おっしゃったのは、そういう意味ではなかったのでは?」
「何の話です?」
「覚悟…」

 蒼次郎はどこか面白そうな表情を浮かべた。

「ああ。‘覚悟は出来てますか’?」
「ええ、それです」
「何故?」
「…私がその真意を汲み取れなかったので、質問の趣旨を変えたように感じました」

 蒼次郎は、少し感心したように見えた。

「では、どういう意味だったと?」
「分かりません」藍子は微かに眉を寄せる。「ただ、言葉と声色に違和感を抱いたものですから」

 蒼次郎はしばらく何も答えなかった。本当のことを言おうか迷っているというよりは、緊張した面持ちの藍子の様子を楽しんでいるように見えた。

「今夜は家に帰らないと言ったら、ついてきますか?」
「え、―えっ?」
「失礼いたします」と扉が開かれ、前菜が運ばれてきた。
「冗談です、とは言いません。本気ですよ」

 蒼次郎は、ウェイトレスの存在にもまったく無頓着に続ける。ディッシュをテーブルに並べる音が単調に響く。

「食前酒です」

 小さなグラスに鮮やかなピンクのチェリー酒が注がれている。藍子は思わず身を固くしてそのグラスを必死に見つめる。

「では、ごゆっくりどうぞ」

 ウェイトレスが出て行くと、奇妙な緊張感で空気が張り詰めたような気がした。蒼次郎は何も言わずにグラスを手に取る。

「藍子さん」名前を呼ばれて、彼女ははっと目の前の男の顔を見上げた。「乾杯しましょうか」
「これは、お酒ですか?」
「ご心配なく。そんなに強いお酒ではありませんから」

 藍子はすうと息を吸って、グラスを手にする。僅かに手が震えているのを蒼次郎は目を細めて見つめた。涼やかに小さな音を立ててグラスの音が響き、藍子はそれを一気に飲み干した。


「ええ、皐月さんに門限を言い渡されておりますからね」

 帰るのですか? と藍子が聞くと、蒼次郎は涼しい顔で笑った。

「残念でしたか?」

 意地悪な笑みを浮かべると、藍子はムッとした表情を浮かべた。

「騙したんですか?」
「とんでもない。うかがった言葉は本気でしたよ?」くすくす笑いながら蒼次郎は言った。「だいたい、お返事をいただいておりませんでしたよ、藍子さん」

 駐車場で後部座席のドアを開けて藍子を乗せ、蒼次郎は運転席に乗り込む。

「お酒を召し上がったのに運転して大丈夫なんですか?」
「食前酒一杯くらい、飲んだ内には入りませんよ。アルコールはほとんど入っておりませんから」発進させる前に後ろを振り返って彼は言う。「それとも、今夜はこのホテルに部屋を取りますか?」
「いいえ!」藍子は即座に答える。「今、お返事差し上げましたわ」

 ふふ、とむしろ嬉しそうに蒼次郎は笑った。

「では、またの機会に」


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