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「短編」
月光

月光

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 白くぼうっと光った女の子がいた。
 砂利道の脇に背中を丸めてしゃがみ込んでいたその子は、白い服を着ていて、降り注ぐ月光に照らされていたせいで白く光っているように見えるのだと僕は思った。
 夏祭りの夜のことだった。
 花火が終わって、屋台もどんどん片付けを始めて、最後に並んだたこ焼きがちょうど僕の前で売り切れてしまって、チェッという気分で家路に就いた矢先のことだった。その日、一緒に遊んだ友達は皆家が僕とは反対方向で、僕は屋台の前で彼らと分かれてきたのだ。
 僕の家は山の麓にあって、他に家は数軒しかも他の家は大人ばっかりだ。だから、僕と同じ方向へ歩いてくる子どもは他にいない筈だった。
 じゃ、あれは誰だ?
 そんな筈はないと否定しながらも、僕の頭には「幽霊」という単語がチラチラと揺れている。ぞうっと背筋が冷えた。
 砂利道はどんなにそうっと歩いても僅かに音が鳴る。しゃがみ込んでいるらしいその子は、近づくと真っ白なワンピースを着ているらしいことが分かった。落し物を探している様子でもなく、ただじっと地面を見つめているように見える。
 あと10歩ほどでその子の脇を通り過ぎるところまで来て、僕は突然一歩も先へ進めなくなった。
 あ、でも待てよ? と僕は僅かに思い出したことがあった。隣の家のばあちゃんの孫が夏休みで帰ってきてるんじゃなかったっけ?
 そうだ、きっとその子だ、と頭は肯定しているのに、それでも僕は足が前に出ない。相変わらず、その子はじっとしていた。僕に対して横顔のその子の表情は、俯いているためまったく分からない。髪の毛が首筋のところまでの長さで、頭の上は月光でつやつやと光っていた。
 何か用でもあるんだろう、と僕は言葉にして考えた。誰か、祭りに出た大人を待っているのかも知れない。
 奇妙な言い訳をぐるぐる考えながら、僕は意を決してその子の背後を通り抜けようとした。
 踏みしめる砂利が微かな音を立ててきしむ。その音が鳴るたびに、僕の心臓もどかどかと大きな音を立てた。一歩一歩を出来るだけそうっとそうっと踏み出しては冷や汗を背筋に感じる。あと数歩で通り過ぎる。いよいよ心臓は爆発寸前だった。
 そのとき。
「お兄ちゃん?」
 その子が振り返って僕を見上げた。
 
 あんなに明るい月夜だったのに、その子の瞳は真っ暗で。これ以上の闇はないという漆黒の、地獄の底を覗き込んだような色を湛えて僕を懐かしそうに見上げた。
 その、底のない闇を覗きこんで、僕は声にならない悲鳴をあげた。息を呑むとか、絶句するとか、そういう生易しいものではなくて、それは譬えるなら身も凍る恐怖の色だった。
「お兄ちゃん」
 その子は僕を見上げて目を細めた。三日月形の闇が僕の心をじっと見据える。そこに同じ闇があることを確かめるように。丸顔で色白で、くるんと大きな目をした現代風のお雛様のような顔をした子だった。黒髪が少しふわふわと柔らかく、そこだけ日本人形というより、西洋的な匂いがした。
「一緒に帰ろ?」
 どこへ…、と声がかすれて僕はただぱくぱくと口を動かした。立ち上がって差し出された手をとることなんて出来なかった。まるで半分透けたようなその子の身体は、近くで見ても明らかにふわふわとした光に包まれて光っている。月光ではない。その子自身が放つ光なのだとようやく知った。月光なら美しいと感じるかも知れない。しかし、その発光体は明らかに禍々しく、この世のものではないことがはっきりと伝わってくる。差し出され白い小さな手からひやりと冷たい風が吹いてきた。
「ごめん」
 僕は叫ぶように飛びのいた。よく身体が動いたものだと驚く。暑さではない、変な汗で全身がびっしょり濡れていた。
「どうして?」
 後ずさる僕に、その子は僅かに首を傾げて一歩近づいてきた。
「待ってたのに」
「ごめん!」
 口がからからに渇いていた。
「ずっと待ってたのに」
 その子の唇の動きに、虚ろに光る目の色に僕の心はかき乱された。
「そんなつもりじゃなかったんだ」僕は震える声で言った。「死んじゃうなんて、思わなかったんだ!」

 その日、僕は祭りで友達と遊ぶ約束をしていた。
 一緒に行きたいと駄々をこねる妹を「迎えに来るから」と言い置いて出かけ、そのまま友達と屋台で遊びまわっていた。何度か置いてきた妹のことを考えて胸の奥がちくちくしていたが、素知らぬ振りを決め込んでいた。そのとき、不意に彼女が現れた。僕を追いかけて一人でやってきたらしい妹は、僕を見つけて嬉しそうに近寄ってきた。
「お兄ちゃん、金魚すくいしたい」
 見ると百円玉を握りしめている。それだけじゃ、出来ないよ、と僕は思った。それでも僕は金魚すくいの屋台の前へ妹を連れて行って足りない分をそっとおじさんに支払った。そしてそのまま友達の待つゲームの屋台へ向かった。結局、一匹も取れなかったらしい妹は屋台のおじさんに一匹サービスしてもらって、にこにこしながらビニル袋に入った小さな金魚を手に僕を探しにやってきた。
「もう帰れよ」
 友達の視線を背中に感じてイライラした僕は思わず強く妹の背中を押してしまった。あっと思った瞬間、妹は転び、その拍子に持っていた金魚を地面に叩き付け、押し潰してしまった。
 せっかく今日のために買ってもらった可愛い服を汚してしまい、泣きながら僕を呼ぶ妹を、僕はそのまま見捨てて走り去った。
 その後、妹の姿は祭会場から消えた。
 そして―。

「お兄ちゃん」
 帰り道に妹はいた。濡れた染みは残っていたものの、無事な姿を見てほっとしたのに、僕はわざとぶっきらぼうに言った。
「なんだよ、まだいたのか」
「一緒に帰ろ?」
 妹の嬉しそうにきらきらした瞳に、僕の心は痛かった。どんなに冷たくされても、彼女はいつでも僕をこんな目で見上げる。言葉にすれば、嬉しくてたまらない、という全幅の信頼と好意の光だ。
「先に帰ってろって言ったろ?」
「だって…」
 一人ぽっちで花火を見上げ、ここで僕を待っていたんだろう。妹は一人遊びが得意だった。こうやって月明かりさえあれば、地面に転がる石ころでさえ彼女の友達になってくれるのだ。
「濡れた服のままでいたら風邪ひくだろ」
「だって、お兄ちゃんが押したんだもん」
「お前がうるさいからだ」
「うるさくしてないもん」
「それがうるさいんだよ」
 拗ねたような口ぶりが実はとても可愛い。
「だって、お兄ちゃんが迎えに来るって言った」
「じゃ、黙って待ってろよ」
 本当は、こっそり迎えに行くつもりでいたのだ。だけど、なかなかその隙を見つけられずにいる間に、妹は待ちくたびれてしまったのだろう。賑やかな祭会場を思って、いても立ってもいられなくなったのだろう。そして、妹は友達になってくれる生き物が大好きなのだ。ずっと前から、この祭りで金魚を買うんだと楽しみにしていたのを知っていた。後悔で心臓がずきずきした。
「だって…」
 妹が今にも泣きそうな表情をするので僕は本気で胸が痛む。優しく妹の背中を押しながら二人で歩き始める。
「ごめん」
「お兄ちゃんと遊びたいんだもん」
「他に友達つくれよ」 
「どうして?」
「女は女同士で遊べ」
「待ってたのに」
 妹はまた泣きそうになる。立ち止まって俯く彼女を振り返って、僕はいろんな思いが渦巻いた。小学校に入学して、妹はようやく同年代の子と遊べるようになった。近所には年の近い女の子がいないのだ。それまでいつでも僕の傍から離れなかった妹が他の子と遊ぶ姿を見るのは、ほっとする反面、どこか複雑でもあった。寂しいというより、嫉妬に近い感情を抱いていたのかも知れない。それで今日は余計にイライラしていたのだろう。
 僕はなんて勝手なんだろう。
「ごめん!」
 心から出た言葉だった。
「お兄ちゃんと遊ぶ方が良いんだもん」
 え、と僕は妹をじっと見つめた。夢見るような口ぶりで、妹はごく当たり前の声で呟いた。
「…黙って待ってたら迎えに行ったよ」
「ずっと待ってたのに」
 それは、分かっていた。
「友達と約束があったんだから仕方ないだろう」
 いつまでも妹を連れて歩いている僕を、友達は次第にうっとうしがるようになり、そしていろいろ勘ぐるようにもなってきていた。
「金魚、死んじゃった」
「…ああ、うん。ごめんな」
 半分上の空で答え、妹が本気で悲しんでいることに不意に気付いた。激しい後悔が押し寄せてきた。
「金魚…」
「そんなつもりじゃなかったんだ」
 妹を転ばそうと思った訳でももちろんなかった。本当に帰れば良いと思った訳でもなかった。ただ、そういう風に見せないと友達が冷やかしの目で見るようになっていたことに僕は恐れを抱いていたんだろう。
「死んじゃうなんて、思わなかったんだ」
 僕はその後、後悔で胃がよじれるようだった。友達に何を言われても守ってあげれば良かったのだ。
「ごめんな」
 僕が言うと、妹は濡れた瞳で僕を見上げた。大きな黒い瞳に月が明るく映っていた。

 妹とはいっても血は繋がっていない。まだ小学校へ入学したばかりのその子は、実は隣の嫁いだ娘さんの忘れ形見だ。町の魚屋の長男と結婚した娘さんは、赤ん坊を生んですぐ事故で死んでしまった。「男の子だったら引き取ったんだけどねぇ」と実家へ返された孫娘。おじいちゃんも早くに亡くしていた隣のおばあちゃんは、一人娘に先立たれてすっかり年老いてしまった。見かねた母が、親のいない彼女のことも一緒に面倒をみて、しょっちゅう隣に行っているので、その子は僕を「お兄ちゃん」と呼ぶ。
 そして、僕は空想癖のある小説家志望の小学6年生である。

 妹とのその後は、いずれまた機会があったら―。

 
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