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天女のように

天女のように 12 憧憬

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 「お母さん」と暁に呼ばれる度に、私は不思議な気分に陥る。日本語が少したどたどしいのに、暁の「お母さん」という発音はまったく日本人のそれで、そこだけ違和感がない。言葉はほとんど通じるし、兄と交わしていた言葉は私の前ではまったく話さない。無理している様子はないのだが、そこがむしろ奇妙に思えることもあった。

 だけど、私は聞かない。兄がこの子に何をどこまでどんな風に話していたのかが分からなかったし、どんな過去があろうと、私に関われるのは「今」と「これから」だけだ。もしも暁が話したいことがあって、更に聞きたいことがあったとき、きっと話してくれるだろう。

 そんな風に思えるくらい、暁の目は、子どものそれではなかった。澄んだ光を宿したまま、多くを味わいつくした深い色を湛えていた。抱えるものは山ほどあるに違いないのに、ここへ来た途端、すべてをリセットしようとしているかのように、すとん、と日常に馴染んでしまった。少なくとも、そう振る舞っていた。

 だから、私には聞けなかった。暁が話さないことは何も。

 父と母は初め兄を質問攻めにして、いつもの如くまったく埒が明かないと分かってからは、暁に矛先を向けたこともあった。そういうとき、暁は無言で黙りこくってしまうか、ぽかん、と何も分からないような表情をしてみせる。言葉がたどたどしいこともあり、次第に父も母も諦めてくれた。

「いったいどういう素性の子どもなんだかねぇ」と母は食事の支度をしながら、よく不安そうにこぼしていたが、幼い子どもという存在はその場を和ませるものらしい。私の養子ということは、父と母にとっては「孫」になるのだから、おじいちゃん、おばあちゃんはそれなりに二人を存在を受け入れてくれた。


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