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天女のように

天女のように 11 憧憬

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 こんな風に子ども二人を育てながら、世間的には未婚のシングルマザーを演じて、これから先どうなるんだろう、と思わなくはなかったが、私はそんなに不安は感じていなかった。いや、自分の将来に関しては、という意味だ。そうか、私が生まれてきた意味は、すべきことは、この子たちをまっとうな一人前の「人間」として育て上げることだったんだな、私はこの子たちの「お母さん」になるためにこれまでの人生を生きてきたんだ、と素直に思えていた。それ以上の何も、望まなかった。

 良太郎のことを思い出すと、あの笑顔とあったかさを思うと時折胸がちくちく疼いたが、では、この子たちと引き換えに彼を選ぶか? 問われたら、考える余地などない。私はこの子たちがいるから今生きているのだと断言出来るから。

 ただ、私が不安なのは、この子たちのことだった。毎日が必死に過ぎていくから日中はあまり考える暇はないのだが、真夜中にふと眠る二人の子どもの顔を見下ろしたとき。月光に照らされてつやつやの肌が光って見えるとき。私は無性に不安になって、叫びだしたくなる。

 こんな風に父親とも母親とも引き離され、もしかして、生まれた国とはまったく環境の違う場所で、見知らぬ家で、初めて会った人間と暮らす幼い子どもの心とは。

 そんな目に遭ったことのない私には正直分からないが、もしかして、兄がこの子たちを「日本」へ、つまりとりあえず安全と思われる国、命の危機や飢餓や恐ろしい感染症などからは守られていると信じられる場所へ連れて来たのだとしたら、この子たちは、もしかしてすでに危険な目に遭っていて、兄は、本当に切羽詰って私に託したのかも知れない。

 そんな境遇の子ども達を安易に引き受けてしまって、私は本当にこの子たちの心を救うことが出来ているんだろうか。

 この子たちは、本当にマトモに育っているんだろうか?
 この子たちは、ここにいることが幸せなんだろうか?
 この子たちは、本当は心に闇を抱えて苦しんでいるんじゃないだろうか?
 ああ、それよりも、何かあったとき、私はこの子たちを一人で守ることが出来るんだろうか?

 そう思うと狂いそうになる。助けて、と叫びたくなる。誰か、この子たちを助けて、と。

 そして、すうすう眠る二人の安らかな寝顔に、「ああ」と声が漏れる。それは記憶だったのかどうか。夢だったのかも知れないし、私の勝手な妄想かも知れない。だけど、同じ光景を私は見たことがある。立場を逆にして。

 誰かが眠る私を見下ろしている。こんな風に泣きそうに切ない瞳で。いや、もしかして本当に泣いていたのかも知れない。私は眠っている筈なのに、あまりに強い視線に気付いて薄目を開けてその相手を見上げている。私の視線に気付いたその人は、泣き顔のまま微笑んだ。瞳に光るものが、つうと流れ落ちて闇に吸い込まれた。

 あれは―誰だったのだろう?

 男女の区別すら分からなくて、月光を背に受けたその人の柔らかい気配だけを夢のように覚えている。
 あれは―誰だったんだろう。

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