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天女のように

天女のように 8 憧憬

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 私は子どもを育てるために、仕事を辞めてしばらく家にいることにした。貯金が少しはあったし、兄がある程度のお金を残していってくれたので、とにかく、この生まれて数ヶ月と思われる赤ん坊を保育園に預けられるようになるまでは。

 両親と一緒に暮らしているのに、私は何故か父や母に迷惑を掛けてはいけない気がして、子どもの面倒は出来るだけ私がみるつもりでいたのだ。父も母も兄の奔放さには振り回されっぱなしで、いつでも疲れた顔をしていたし、そんな二人を見ているのが私はいつでも辛かった。

 勝手に会社を辞めて消えてしまった私に、しかし、恋人は愛想を尽かすどころか「じゃ、僕が君たちの生活をみてあげるよ」と言いだした。

「え、…それは止めた方が良いんじゃない?」
「なんだよ、それ、どういう意味さ」

 恋人―良太郎はムッとして私を見た。薫を抱いてミルクをあげながら、私は傍で絵を描いている暁の様子を眺めていた。会社帰りに彼が訪ねてきてくれるのはここ数日恒例のようになっていたのだが、悪いと思って、私はもう来なくて良いよ、と言ったのだ。それに対する良太郎のその返答もおかしいが、私も随分冷たい女だ、と自分で思っている。

「いや、確かに君がいきなり辞めちゃって、しかもその理由も子育てに専念するからなんてことを人伝に聞かされた僕としては、いったいどういうことや! って慌てたけどさ。でも、来てみたら抱いてる赤ん坊も君がたった今生んだにしてはいきなり大きすぎたし、しかも、暁ちゃんは可愛いし、一生懸命子どもの世話をしてる君の姿を見たら、僕もなんか混ぜて欲しいな、って思ったんだよ」

 にこにこしてそんな人の好いことを言い始める良太郎に、私は何よりも呆れ果てた。

「もう少し、怒るとかさ、バカにしてんのか! ってことにならなかったの?」
「最初の頃は君のそういう淡々とし過ぎる部分にびっくりして、時々は腹も立ってたけど、もう慣れちゃったよ」

 それもそうか、と私は妙に納得した。こんな風に柔軟な男だからこそ今まで私と付き合ってこられたんだろうな、と。それまでお付き合いのようなことをした男性は、まず三日持てば良い方だったんだから。

「君と付き合っていると、まず退屈しないしね」
「失礼ね」
「だからさ、僕、この家に住んで良い?」
「どうしてそういうハナシになるの?」
「だって、この子たち、お父さんがいないじゃないか」
「いや、それはこっちを基点として考えればそんなことにもなるけど、まずは良太郎のご両親が絶対に納得しないって。長男で一人っ子じゃない」
「ああ、そうか」

 本気で驚いて納得しているらしい良太郎のことは放って、私は描いた絵を見せにきた暁のいつもながら豪快な色使いに感心する。きっとこの子たちが生まれたのは日本よりずっと暑い地域だったのだろう。その色彩感覚と、笑顔の華やかさが生きることへの力強い躍動を物語っている気がする。

 そう、何よりも良いと思うのは、暁の笑顔の力強さにだった。そのパッと花開くような輝く笑みは一見の価値がある。日本人の作り笑いなんて「笑顔」とは呼ばないんだってことを、でも、まぁ、だからってどうでも良いんだけどな、って感じにあしらわれているように。

 初めて会社帰りに家に現れた良太郎は、青ざめて息せき切って、まるで呆然とした表情で玄関先に立っていたが、私が薫を抱いて出迎え、更に私の足に縋りつくように訪問者を覗き見た暁を目にした途端、「え」という口をしたまましばらく固まってしまっていた。

 我ながら申し訳ないことをしたとそのときは反省したのだが、本当は、一言の相談もなく消えた私に、遂に呆れ果ててきっぱりと別れてくれるだろうと期待したからだったのだ。

 一緒にいて楽しかったのに、数々の思い出もあったのに、そして、恐らく身近な友人の中では一番いろんなことを語った相手ではあったのに、私はいつか彼も私のもとを去っていくのだ、とずっとそう思っていた。人生の時間を一緒に過ごせる存在なんて私は信じたことがなかった。

 それは、兄のせいだろうかと思う。
 両親ではなく、私は何故か兄に「親」の背中を見てしまっていたのかも知れない。
 生きるということの意味を、彼の背中から学んでしまったのだろうか。あんな風にがむしゃらに、いつでも全力で人生を駆け抜けるやり方しか知らなかった。もっと穏やかに普通につつましく生きている両親が目の前にいるというのに。

「子…子どもって、その子―たち?」

 やっと口がきけるようになって、良太郎は二人の顔を交互に見つめた。

「え、うん。養子ってことにはなってるけど、叔母なんだ、本当は」
「じゃ、君が生んだ訳じゃないんだね」
「当たり前じゃない。いつ生む暇があったのよ」
「なんだぁ…」

 良太郎はそれを聞くとぐったりとその場にへたり込んだ。

「なんだ、僕はてっきり…。ああ、良かったぁ」
「ごめんね」

 思わず私は謝ってしまった。本当はもっと冷たく追い返して、それで終わりにしてもらうつもりだったのに。私も本当は嬉しかったのだ。こんな風に私に会いに来てくれた彼の優しさが。

「とりあえず…あがってく?」

 うん、と人懐っこい笑顔で彼は頷き、そして、そのまま暁とも仲良くなってしまった。

 その後、彼は何かしらのお土産を抱えて毎日仕事帰りにわざわざ私たちの顔を見にやってくる。絵を描くことが好きな暁のために、仕事中にネット注文して画材を取り寄せたりもしているらしい。そんな風に優しいと私は本当にいたたまれなくなってくる。

 もう、来なくて良いよ。
 じゃ、僕が君たちの生活をみてあげるよ。

 これは、会話として成り立っているんだろうか?

 いずれ、彼とはもっときちんと話さなくては。私の勝手な人生に…いや、私と兄の、というべきか? まるで地に足がつかないようなふわふわしたこの生き方に真面目な彼を巻き込む訳にはいかない。この子たちは私が兄から託されたのであって、両親にすら甘えられないと思っている。それを、人生まだまだこれからの良太郎に付き合ってもらう訳には断じていかない。それだけははっきりしていた。ああ―だから、私は彼に何も告げなかったのだ。

 まるで本能で行動しているような私は、後から自らの言動の本当の理由を知る。考えるよりも、まず身体が動いてしまう。きっと貧相な頭であれこれ考えるよりも、魂が直接感じることの方が正しいのだ。理由はいつでも、後からついてくる。
 

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