FC2ブログ

スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←天女のように 3 残像 →天女のように 5 残像
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png 六趣輪廻
もくじ  3kaku_s_L.png 
もくじ  3kaku_s_L.png 夜船閑話
もくじ  3kaku_s_L.png 刹那
もくじ  3kaku_s_L.png 蓮華国
もくじ  3kaku_s_L.png タナトスの翼
もくじ  3kaku_s_L.png さくら
もくじ  3kaku_s_L.png 聖火
もくじ  3kaku_s_L.png アニマ
もくじ  3kaku_s_L.png 聖~セイント~
もくじ  3kaku_s_L.png 狭間
もくじ  3kaku_s_L.png 完全数
もくじ  3kaku_s_L.png 天女のように
もくじ  3kaku_s_L.png 藍色哀歌
もくじ  3kaku_s_L.png こくはく
もくじ  3kaku_s_L.png 曼荼羅
総もくじ  3kaku_s_L.png 短編
もくじ  3kaku_s_L.png ザ!霊障
  • 【天女のように 3 残像】へ
  • 【天女のように 5 残像】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

天女のように

天女のように 4 残像

 ←天女のように 3 残像 →天女のように 5 残像
 そして極めつけは―。
 私が高校のときだった。

 それまで日中は割りといつでも家にいた兄が、その頃は朝夕以外、どこかへふらりと出かけるようになっていた。日中と夜間は別々の場所へ出かけているのはその服装で一目瞭然だったが、どこへ、何のために? という疑問に兄はマトモに答えてくれたことがない。

 朝食の席で見る兄は、とりあえず、普通の格好をしている。シャツにジーンズとか、ラフではあっても町で見かけて許せる範囲だ。しかし、夕食時の服装は明らかにどこかおかしい。真っ黒なラメ入りのヒラヒラした生地のシャツとか、真っ赤なビロード調のなんとも言えない衣装を身につけて食事に下りてきたときなんて、私を始めとして皆、味噌汁を吹き出しそうな勢いだった。

「お前! なんだその服装はっ」

 案の定、父が怒りに震え、母が大きなため息を漏らし、私は唖然とはしたものの、笑いを堪えるのに必死で俯いて肩を震わせていた。

「いや、仕事着だから」

 兄が平然と食事を続けるので、父が怒りのあまり茶碗をドン! とテーブルに叩きつけて去っていき、母がその拍子に零れた味噌汁などを片付けているのを二人で無言で見守った。そして、母が流しに立ったとき、兄がちらりと私を見てニヤッと微笑んだその瞳の温かさのようなものを今でも思い出す。

 兄はとにかく変わっていたけど、変だったけど、私は好きだった。

 後日、兄の昼夜の所在が判明する。日中は美容の専門学校へ通い、夜はホストまがいの仕事をしていたらしい。ホストまがい、というのは。客が皆男、つまりゲイ専用の店だったらしいのだ。少なくとも私の記憶にある兄は、普通に女生とお付き合いもしていたし、ストイックだった筈だから、そっちは本当に仕事でしかなかったんだろう。

 高校に入学して、それまで仲の良かった子たちと進路が分かれ、私も新たに友人が出来た。それまでの友人が素朴でほんっとに健全な子たちだったのに比べて、高校時代の友達は、都会っ子だったせいもあるのだろうか、やけに刺激的で俗物的だった。私はそれまで友人に兄の話をそんなにしなかったのだが、彼女らは変な兄の話をことの他喜び、挙句に紹介してくれ、とせがまれた。

 夏休み前にわざわざ私の家に遊びに来た3人の女子高生を前に、兄は「妹をよろしく」とごく普通の兄の役を演じてみせてくれた。本当に役者みたいだな、と私は感心する。

 しかし、彼女らの行動力には私は驚くことになる。夜の兄の所在を掴んできたのは、実は我が友人だったのだ。

「ねぇねぇ、シューちゃん。私たち、昨日会っちゃったの」
「会っちゃったって、誰に?」
「お兄さん」
「…え、兄ちゃん?」
「そうそう」

 同じ中学出身でいつも3人一緒のその子たちが、にこにこと一斉に私を見つめる。電車を降りて学校へ向かう大通りの一本道の歩道の上だった。駅に向かう会社員の方々と時折すれ違うだけで、ほぼ、学校へ向かう生徒の群れの中、彼女らは屈託ない。いつも一緒とはいえ、彼女らの付き合いはそれほどベッタリしていなくて、個性も趣味もてんでんバラバラで、それなのに何故かウマが合い、登下校とランチだけはほぼ一緒だった。そこになんとなく私も混じったり混じらなかったりという具合だ。

 学校帰りにカラオケ店に立ち寄り、朝方まで歌っていたというツワモノ3人にも驚きだったし、恐らく変装していたであろう兄を見破った眼力にも舌を捲いた。

「男の人とキスしてたよ」

 笑うでもなく、軽蔑するでも気味悪がる訳でもなく、3人は真顔でご報告してくださった! 制服を着替えて遊びまわっていた彼女らを、兄の方もふと気付いたようで、茫然と自分を見つめる女子高生3人を見咎めると「さっさと家に帰れ、ガキ共!」と真顔で睨まれたのだそうだ。

 男と…、という衝撃の光景を報告されたことより、「家に帰れ」とすごんだ兄の目の色だけが鮮明に浮かんだ。お陰で、ああ…それは間違いなく兄だ、と確信するに至ってしまった。妹と同じ年の少女たち。兄にとっては私の友人は、妹とそう変わらない存在だっただろう。

「へ…へええ」

 私ももう頭が真っ白状態で彼女らの報告に受け答えしていた気がする。しかし、その話しはそこで終わらなかった。睨まれようがすごまれようが、私の話で兄がどんなに変な人間かを知っていた3人はひるまなかった。店の客を玄関先で送り出した直後の兄を捕まえて纏わりついた。

「シューちゃんのお兄さんでしょ?」
「ねぇ、今のヒト彼氏なの?」

 そのときの兄の顔が浮かんで私は僅かに笑えてしまった。

「うるさい、ジャリ共。こんな時間まで何やってんだ、さっさと帰れ」

 3人を見捨てて店に戻ることはせず、兄は必死に友人3人をネオン街から追い出そうとしていたらしい。

「ねぇねぇ、男の人とキスするのってどういうもんなの?」
「お前らもさっさと経験してみろ」
「店に行けばキスしてくれる?」
「あたし達も店に入りたい」
「入れて入れて」
「女性はお断り。しかもお前らはまだ女性ですらないだろう」
「え、じゃあ、ゲイバーなの?」
「オカマなの?」
「お子さまが知る必要はない!」

 抗議の声をあげる3人を引きずるように表通りまで引っ張り出して、兄は店に戻って行ったらしい。

「お兄さん、すごい素敵だったよ」「うんうん、カッコ良かった」
「な…何が?」

 彼女らのテンションについていけずに私はたじろぐ。

「なんか、ほら、掃き溜めに鶴って言うの? こう後光が差して見えた」

 …それは、夜明けが近かったせいでは。

「目がね、闇色に光って見えて、ぐっときちゃったよ」

 それは、単に暗かったからでは。

「お客さんと話していたときと振り返ったときの空気の切り替えがすごかった」

 そりゃ、妹の友達に色気を出されちゃたまらんって。

 しかし、口々に兄を褒める彼女らのニコニコ顔は何故か私を幸福にしてくれた。変な兄を恥ずかしく思ったことはなかったが、それでも異端であることだけは薄々感じていたから、やはりどこかにわだかまりのような、しこりのようなものはずっと抱えていたんだろう。それがすうっと溶けていくのを肌で感じていた。



 私の大学進学を渋る両親に、進学費用は俺が出す、と兄が言い、在学中に見聞を広めてこい、と彼は留学手続きもしてくれた。

 そして、私が大学を卒業する頃、兄は行方が分からなくなった。



関連記事
スポンサーサイト


もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png 六趣輪廻
もくじ  3kaku_s_L.png 
もくじ  3kaku_s_L.png 夜船閑話
もくじ  3kaku_s_L.png 刹那
もくじ  3kaku_s_L.png 蓮華国
もくじ  3kaku_s_L.png タナトスの翼
もくじ  3kaku_s_L.png さくら
もくじ  3kaku_s_L.png 聖火
もくじ  3kaku_s_L.png アニマ
もくじ  3kaku_s_L.png 聖~セイント~
もくじ  3kaku_s_L.png 狭間
もくじ  3kaku_s_L.png 完全数
もくじ  3kaku_s_L.png 天女のように
もくじ  3kaku_s_L.png 藍色哀歌
もくじ  3kaku_s_L.png こくはく
もくじ  3kaku_s_L.png 曼荼羅
総もくじ  3kaku_s_L.png 短編
もくじ  3kaku_s_L.png ザ!霊障
  • 【天女のように 3 残像】へ
  • 【天女のように 5 残像】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【天女のように 3 残像】へ
  • 【天女のように 5 残像】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。