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天女のように

天女のように 3 残像

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 それから、あれは私が中学生になったばかりの頃。

 兄は浮浪者に混じって遺跡発掘のバイトをしていたことがあった。浮浪者に混じってというのは、兄はその夏中本当に家に戻らずに路上生活をしていたのだ。登校する途上で川原傍の道を通るのだが、その川原に段ボールや捨てられたシートなどで小さな家を作って生活していた人々がいて、兄はその中にすっかり溶け込んでいた。

 友達が路上生活者を気味悪がるので、私もあまりその川原に近づかないようにはしていたが、彼らが仕事へ出かける時間帯と登校する時間帯がそれほど変わらなかったから、その人たちとはよくすれ違っていたのに。やはり、私は兄にまったく気づかなかった。

 髭もそらずに髪の毛もぼうぼうで、日に焼けて顔も真っ黒。見慣れた濃紺の作業着が土にまみれて黒ずみ、とても兄とは思えなかった。

 私も兄の存在にまったく気づかなかったのだが、兄は兄で、まるでずっとそこで生活していたように仲間のおじさん達にすっかり気に入られて夜な夜な宴会を繰り広げ、何年も前からそこにいたように違和感なく過ごしていたらしい。毎日土を掘って運んで、肉体労働で鍛えられて体格もすっかり逞しくなり、すでに別人のように汚くなっていた。

 夏限定のその仕事が終了すると、兄はそれまでの仲間達に爽やかに別れの挨拶をしてそこを引き払ってきたらしい。その現場をたまたま学校帰りに目撃し、更に友人たちの前で「おう、一緒に帰ろうぜ」と手を挙げられた私の驚愕は。

「に―兄ちゃん?」

 兄はどこか満足気に笑ったのみで、そのままスタスタと私たちの前を歩き出した。友人二人と私は茫然とその背中を見送る。

「…お兄さんなの?」
「いつから?」

 いや、いつからっていうか、たぶん、私が生まれたときからだと思う。なんとなくこわごわ確認してくる友人たちの怯えた表情にどう対処して良いのか私は途方に暮れて、どこか引きつった笑みで応えた、ような気がする。

「あの、シューちゃん、私たち…」
「うん、兄ちゃんと帰るから、またね」

 あまりにものすごい兄の格好に恐れをなした友人の心を思いやって、私は二人に手を振って別れを告げる。もうその臭気に私もゲンナリするくらいだ。

「ねぇ、どんだけお風呂に入ってないの?」
「え? 川で水浴びはしてたぜ」
「水浴び…って洗ってないんでしょ?」
「どこを?」
「ど…っ、どこを、ってどういう質問よっ! 全体的にってことよっ」

 思わず声が上擦ったまま叫んでしまう。兄はそんな私を振り返って目を細めた。

「お前、その制服似合うな」

 私はぽかんと口を開けた挙句、なんだかずっしりと疲れを感じた。私の中学校の制服は確かに町で一番可愛いと評判のお嬢様風のセーラー服だった。そういえば、この学校を選んだのは兄の希望だったことを思い出す。

「ねぇ、もうその仕事終わったんだよね?」
「うん、終わったよ」

 とりあえず、今のところはそれでよしとするか、と私は考えた。兄は私が物心ついた頃にはほとんど家にいなかったけど、夜中だろうと朝方だろうと必ず帰宅はしていた。それが今回、夏中ずっと家に戻ってこなくて私は少し寂しかったのだと思う。

「明日からどうすんの?」
「なんだよ、もう俺を追い出す計画か?」
「そうじゃなくて!」

 ふふ、と再び目を細めて、兄はその真っ黒に日焼けした臭い手で私の頭をぽんぽん叩いた。その手を払いのけるでもなく、私はきゅっとその汚れた手を握った。

「稼いだお金で何か買ってくれたりとか、ないの?」
「悪い、もう全部キレイに使っちゃった」

 そうであろうとも!

「兄ちゃん、家に帰ったら、まずお風呂に入ってね」
「なんだよ、俺がいなくて寂しかったくせに」
「そんな訳ないじゃん!」

 さきほどの感傷なんてとっくに吹き飛んで、私は、ふんと鼻息荒く言い返した。

「おお、つれないねぇ」

 兄は、私にとって本当に不思議な存在だった。

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