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天女のように

天女のように 2 残像

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 そのとき、私は兄に気づかなかった。

 その頃、どうしてか私は不安で、何に不安を抱いているのかすら分からないのに、心の底に穴が空いていて、大事なもの―温かいものも、柔らかいものもすべてそこから抜け落ちていくような、そんな焦燥とも恐怖ともつかない感覚を得て怯えていたのだと思う。

 小学校をもうすぐ卒業する頃だったと思う。冬に差し掛かる冷たい風が頬を冷たくする季節。夏の暑さから開放されてむしろぽっかりと空虚感を抱く時期でもあった。

 夕食を済ませた夕刻、私はまるで夢遊病のように外へ出て近くにある町に向かう。そんなことが何日か続いたことがあった。家の中にいるとうまく呼吸が出来なくなって、動く風を求めて外を彷徨っていたのだろうか。何か別の粒子が混じってしまった空間にいると、肺を満たす空気が薄い気がして私は呼吸困難になる。過呼吸までは起こさなかったが、それに近い状態に陥ることもあった。

 兄は家族と食事を共にすることすら珍しかったので、その頃も夕食は私と両親だけであった。

 ふらふらと町に出て、怪しい店の立ち並ぶ繁華街に入り込んでぼうっと歩き回っていると、いろんな種類の人間がいる様を見ることになる。食堂の裏にそっと出されている店の残り物をこっそり持ち帰る人の姿や、店に寄ってはそういう人間を毛嫌いしていて、ゴミ捨て場を見張っていては、そういうものを漁りにくる人間を見つけると怒鳴って追い返す店主もいる。夜も更けてくると酔っ払ったおじさんが陽気に歌を歌いながら通りを歩いている姿に何故か涙が零れそうになってみたりもした。

 小学生がそんなところをウロウロして、よく犯罪に巻き込まれなかったと思うが、あまりに魂の抜けた顔をしていた私に、むしろ誰も近づきたくなかったのかも知れない。

 そんなある夕刻。まだ辺りが真っ暗になる前の時間。私はいつものようにネオンの煌く店の前を通り掛っていた。そのとき、不意に背後から腕を掴まれて、私はその相手を見ようと振り返った。

 派手な化粧をして、華やかなというよりは下品でごてごてと飾りつけただけの衣装に身を包んだ背の高い女が私の腕をしっかりと掴んで立っていた。年齢不詳。20代くらいと言われても40代と言われても違和感がなかった。しかし、彼女の顔ははっと息を呑むほど綺麗だった。化粧のせいではなくて、顔の造作でもなくて…きっと、その瞳の光の強さだったのではないかと思った。

「何よ」と、私は大した恐怖感もなくぶっきらぼうにその女を見上げた。
「ガキは家に帰れ」
「離してよ」

 ムッとして、腕を振り払おうとしたのに、その細い指は思いのほか力が強くて離れない。彼女は無言で私の腕を引っ張って家の方向へ向かう。

「ちょっと、痛いって」

 私は引きずられるように彼女の後ろを歩く。香水の匂いが鼻についた。

「おばさん、臭いよ!」

 腹いせに私は顔をしかめてみせる。しかし彼女は振り向きもしない。ぐいぐい私の腕を掴んだまま通りを歩く。

「なんだい、蝶子ちゃん。どこに行くんだい?」

 途中でチンピラ風の若い男に話しかけられた彼女は何か一言二言彼に返すと、僅かに私を振り向いてじろりと睨みつけ、そのまま歩き出した。子どもが夜中近くまでふらついていることが悪いことである認識があった私は、もうどうでも良くなって、彼女に引きずられるまま、ただ不貞腐れて歩き続けた。だけど、この人いつかどこかで会ったっけ? という奇妙な感覚だけはずっとあった。どうしてか、私は彼女を信頼していた。つまり、どこか変なところへ連れて行かれるんじゃないかとか、そんなことは全く考えなかった。

 やがて、十数分も早足で歩かされて、更に派手な女のあまりに派手な姿に周囲の注目を浴びながらも私は家の前まで連れ戻され、彼女は玄関先に突っ立って、私が家の中に入るまで仁王立ちで腕を組んでいた。どうしてその女が私の素性を知っていて、家を知っていたのかなど疑問を抱くこともしなかったのは、子どもだったせいだろう。

 それ以上の言葉も交わさず、私はちらりと最後に彼女の姿を目の奥に留めて、そっと家の中に滑り込んだ。

 それが、兄だったとは!

 声も違ってたよ? 化粧のせいばっかりじゃなくって、まったく気配も分からなかったよ? まぁ、もともと兄は気配のない人間だったけどさ。

 後日、その事実を知って、何よりもまず私は呆れた。兄を分からなかった自分にも確かに驚いたが、何よりも兄の変態さ加減にだ。何を考えているんだろう? あれは、オカマですらなくって明らかにホステスだった。

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