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完全数

完全数 8 エピジェネティクス

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 引っ越した夜、ようやく落ち着いて空っぽの冷蔵庫に飲み物を調達しようと近所にあるコンビニへ出かけた。ふと、雑誌でも買おうかと書籍のコーナーを眺めているとき、不意に視線を感じて顔をあげ、俺は叫び声をあげそうになった。そこにはガラス越しに女の顔が浮かび上がっていたのだ。その白い顔は俺と目が合うと、「あ」という表情になり、俺が唖然としている間に、店の入り口から飛び込んできた。

「栗原くん、偶然!」

 と、その女―よく見ると粟生と名乗ったクラスメイトだった―を幽霊かと思うに至った理由を、店の明かりの下で俺は知る。

「お前、泣いてたのか?」
「え、どうして分かるの?」

 粟生が本気で驚いているようだったので、俺は言った。

「だって、目は真っ赤に充血してるし、瞼は腫れてるし、涙の跡も鼻水の跡もあるぞ」
「ぇ、―ぅわぁぁっ、ほんとに?」
「…トイレ行ってこい」

 俺が指さす間もなく、粟生は、「栗原くん、まだ帰らないでね」と言いながら慌てて洗面所へ飛び込んで行った。

「待つ義理はない」

 俺は、そう呟いてペットボトルを抱えたままレジへ向かう。客は多くなかったが、レジに時間がかかってしまったのは、アルバイトの店員が新人らしくレジ打ちに手間取っていたからだ。イライラしながら待っている内に、カウンター脇のケースに置いてあるフライドチキンが食べたくなった。

「あ、このチキンもお願いします」

 すると、必死にレジの作業をしていた彼は、「え」と固まってしまった。あ、しまった、また時間がかかるのか、と俺はすぐに撤回する。

「いや、やっぱり良いです。清算してください」
「い、いえ。こ…こちらのチキンですね? 少々お待ちください」

 店員は売上が欲しいのか必死に食い下がる。

「いや、良いですって」
「今、すぐにご用意いたします!」

 恐らく、すぐには出来ないであろうことが見え見えなのに、相手はもたもたしながら容器を準備している。

「いえ、だから…」
「い、今すぐ、今すぐ用意しますから」

 断りの言葉を探して口を開きかけた俺は、それすら面倒になり、更にイライラしながら待つ羽目に陥った。

 そうこうしている内に、粟生がトイレから出て来た。相変わらず目は赤かったが、涙の跡はふき取られていたようだ。何があったのか知らんが、関わるのはゴメンだ、と思う。早くどこかへ行ってくれないかと思っていたが、彼女は俺の斜め後ろに立って、どこかソワソワしている様子だ。少し気にはなったが、こいつも何か買い物でもするんだろう、と俺は無視を決め込んだ。

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