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完全数

完全数 3 エピジェネティクス

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「栗原くん」と、背後から声を掛けられ、俺は振り返った。

 その朝、俺はいつものように自分の席で図書館から借りた本を読んでいた。推理小説だった。俺の後ろに立っていたのは、小柄な女子だった。

「何?」誰だっけ? と言いかけた俺は、そういえばクラスメイトだ、ということまでは思い出した。クラス替えがあって、半数以上の顔ぶれが変わり、俺はまだクラスメイト全員を覚えていなかった。
「私、粟生(あわき)っていうんだけど」
「…ああ、そう」
「ねぇ、栗と粟って字、似てるよね?」

 そいつは、俺の前にまわって、前の席に勝手に座って俺と向かい合う。
 屈託なくそう微笑まれ、俺は返答に窮する。

「それで?」
「エピジェネティクスに興味ある?」
「…は?」

 頭、おかしいのか、こいつ? と思った次の瞬間、思い出した。

「お前、完全数の女か?」
「…え?」

 今度はそいつがぽかんとした表情で俺を見つめた。

「あ」そして、彼女は不意にぱっと嬉しそうな目をして微笑んだ。「もしかして、覚えててくれたの?」
「今の今まで忘れてたけどな」
「やっぱり」

 粟生は笑った。笑うと途端に幼い顔に見える。

「ねぇ、その本、私、次借りたいの。早く読んで」
「俺は今読み始めたばかりだ」
「知ってる」

 彼女は笑って立ち上がった。
 俺は男として普通の身長だ、と思う。しかし、そいつは女としても小さい方だった。顔は大人っぽいというか、化粧もしていないのにやたらと落ち着いて見えるのに、座った俺と立ち上がった彼女の目線がそれほど変わらないのだ。ストレートな黒髪で、ポニーテイルにきっちり後ろで結わえてある。特に目立つ訳ではないが、どちらかというと、人目を惹く顔立ちをしていた。

「数学と発生学ってどっちがロマンだと思う?」

 最後に粟生はそんなことを言って去っていった。

「知るか」

 質問を投げたまま背中を向けた彼女の揺れる馬の尻尾にちらりと視線を留めて、俺はため息と共にそう吐き出した。


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